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飲食店の現地調査から基本設計、デザイン提案までの流れ

飲食店の現地調査から基本設計、デザイン提案までの流れ

大阪市西区新町に事務所を構える建築設計事務所です。
主に大阪、兵庫を中心とした近畿圏で、建築やインテリアのデザイン・設計監理、オーダー家具の販売、グラフィックの作成等、店舗の物件探しからオープン後のサポートまで幅広く活動しています。

ここでは、実際の飲食店を例に現地調査~基本設計~デザイン提案と着工前までの流れをご紹介します。

飲食店の設計フロー

初回打ち合わせでヒアリング

まずは顔合わせを兼ねて、現地調査の前に初回打合せでオーナーの要望や店舗のコンセプトをヒアリングします。
コンセプトはゆったりとくつろげる【オイスターバー】。
一日に何回転もするような店舗ではなく、じっくり落ち着いて雰囲気を味わえる店舗デザインを目指しています。
もちろん、長居するためのサービスも充実させていきますよ!!
ただし、基本的にキッチンもフロアも一人で回す予定なので大きな店でなくてもいい。その為の店舗オペレーションも工夫したいということです。

今回は事前に候補の物件があったのでその情報を基にイメージを膨らませていきました。
小さい店舗で、カウンター席4+テーブル席8の12席とれればいいかなという広さですが、 最初はひとりで回すので、その12席も全て使う予定はないということです。

ある程度要望を聞いたうえで、後日現地調査に向かうことになりました。
オーナーの話によると、以前は割烹料理店だったということなので、設備も整っていて居抜きでいい感じで再利用できると思っていたのですが・・・

現地調査1 -立地と外観-

現状外観
現地調査当日、なんとすでに物件を契約したということです。
現状の外観はこんな感じです。

現地調査の時は、待ち合わせの時間より少し早めに着いて、近隣の様子を見て回ることにしています。
立地は大通りから少し入った共同住宅の一階の落ち着いた所で、閑静な住宅街です。
これは昼の写真ですが、夜になるとギラギラする繁華街とは異なり、店内からちょっとした明かりが漏れてくるような落ち着いたた隠れ家的な雰囲気の飲食店が作れそうな場所です。
大阪の繁華街を避けた立地で、ゆったりくつろいでいただける場所を提供したいというオーナー。この立地はコンセプト通りの物静かな面白い店を作ることができそうだなと思っています。

インターネットが発達した今日では、検索して店を探す人が多くなりました。
そのため店舗が人通りの多い路面に面している必要はありません。良い立地といえるのではないでしょうか?

現地調査2 -現状客席のインテリアは和風です-

現状インテリア
客席から見ていきましょう。
聞いていたようにもともとは割烹料理店だったので座敷席があります。
座敷はもちろん、この和風の装飾も含めてオイスターバーのインテリアデザインにはそぐわないのですべて撤去です。
写真には写っていませんが、カウンターも新しく作り変えたいというので撤去になります。

店内はきれいに掃除がされていたのですが、居抜きとはいえ客席に関してはほとんど使いまわせるものがないので、全部解体ですね。
本来はスケルトンにして引き渡しというのが一般的なのですが、もしかしたら前のお店がつぶれて解体もせずに。。。という感じだったのかもしれません。
こういった物件の場合、引渡しの状態や、解体費用を大家さんに負担してもらう等の交渉もできるので契約前に設計事務所に相談されることをお勧めします。

現地調査3 -厨房の状態-

現状キッチン
現状の厨房の様子です。

奥の壁にはカビが生えているのですが、おそらく床の防水をしていないために湿気が残ってしまっているのでしょう。
1階の店舗では防水をしないでもいいと思われる方も多いと思いますが、本来1階でも床に水を流すのであれは防水をするべきです。
防水は下階への漏水の防止だけでなく、衛生状態を保つためにも必要です。水がたまったままではカビの他、菌や害虫も繁殖しやすく、厨房機器も脚から腐食しやすくなってしまいますからね。
今回の店舗ではトイレの床にも水を流したいということなので、排水桝までの勾配をしっかり取って水がたまりにくい状態を維持し、トイレから厨房にかけて防水工事を行う必要があると感じました。

左には撤去予定のカウンターが少し写っています。
厨房区画をもう一度作り直さないといけないので、デザインのことを抜きにしてもこの腰壁を再利用するのは難しそうです。

現地調査4 -設備容量をチェック-

駐車場
最後に設備の状態をチェックします。
写真は店舗の裏側の壁なのですが、鉄筋コンクリートの壁を挟んで立体駐車場に隣接しています。
ということはこちらの壁には給排気やエアコンのためのスリーブ(穴)を開けることはできません。
もちろん隣の店舗との界壁から外に出すわけにもいかないので、道路側の外壁から外に出すしかないようです。

この排気口をどうデザインするのか、これは後で落ち着いて考えるとして、問題はエアコンです。電気と冷媒を室外機につながないといけないのですが、外観写真を見ていただいたらわかるように、その間にシャッターがあります。
このシャッターは共用部分でリースラインの外にあるので、勝手に加工するわけにもいかないので配管を通すスペースがありません。

行き詰ったので、大家さんに現状ついているエアコンはどうなっているのか確認してみたところ、なんと隣の店舗の天井裏を通して8mほど先の室外機置場まで通しているそうです。
エアコンも10年以上前の物なので新品に入替えたほうが良いのですが、ちょっと大変な工事になりそうですね。

そして水道の容量はいいとして、前の店舗が割烹料理店だったのにも関わらす、分電盤とメーターを見る限りでは電気とガスの容量が小さい!
これは厨房機器の選定をした後、電気とガスの容量をチェックしてもらう必要があります。

現地調査のまとめ

この物件は居抜きだと聞いて現地調査に来たのですが、再利用できるものがほとんどないので、解体してスケルトンにしないとどうにもならないな、という感じですね。

やはり物件の契約前に設計事務所などの建築の専門家に現地調査に同行してもらうべきです。
もちろんスケルトンの場合もですが、特に居抜きの場合は、設備容量に加えて既存の意匠や設備が使用可能なものかどうかの判断が必要になります。

店舗内は一見掃除が行き届いていてきれいには見えているのですが、残念です。
これも第一印象を良くして契約してもらおうという賃貸人の努力かもしれませんけど。。。

逆に店を移転したり、閉めたりする時には、できるだけ現状のまま引き渡す交渉をしてみてもいいかもしれませんね。

それでは、ここからできるだけ知恵を絞って、与えられた条件の中でおしゃれで機能的なデザインに仕上げていきましょう。
店舗の経営が軌道に乗れば大成功ですから!

基本設計

意匠図面(平面図)
現地調査が終われば図面の作成に取り掛かります。
ここから本格的な設計業務に入っていくのです。

最初は初回の打合せ、現地調査時とヒアリングを重ねてきたものを図面に表現していきます。
今回の場合は客席はテーブル席×8席、カウンター席×4席、トイレは2か所男女別で喫煙ブースを設けて、カウンターと厨房の位置はほぼ前の店のまま、等です。
まずはラフプランで施主と大まかな方向性のすり合わせを行い、そこから基本設計へと移行していきます。
基本設計は意匠図面から始めて、設備図面、イメージパースとそれぞれの間を行ったり来たり、ブラッシュアップしながら進めていくのですが、その様子を意匠図面→設備図面→イメージパースという順番で紹介していきます。

意匠図面

意匠図面(詳細図)
まずは意匠図面を完成させます。
平面、立面、展開図、部分詳細図を書き、仕上表をまとめて、ラフプランをだんだん立体にしていくのです。
もちろん後から変更になることを前提としているので、これらの図面を見ながらオーナーと店舗のデザインの確認を行います。
デザインの確認とはいっても、この段階では図面とイメージ写真と簡単なスケッチだけの表現になるので、建築主であるオーナーはなかなか全体のデザインを把握しづらいのですが、なんとかもう少しお付き合いください。
設計者の頭の中では設備もデザインイメージもだんだんと完成に近づいてきているので、やがて3Dパースや模型のような視覚的にとらえられるようなツールでプレゼンします。

設備図面

設備図面(照明・電気)
意匠図面が固まってきたら、今まで頭で描いていた設備を図面に落とし込みます。
主に照明・電気、給排気、給排水、防災設備図面をまとめ、この辺りで概算見積もりを取れる程度の図面に仕上ます。
時間を短縮したい場合は、実施設計図の完成を待たずに、この段階で数社の協力会社に見積依頼をして入札してもいいでしょう。
概算見積もりで施工会社を決めてから、予算調整をしながら実施設計を詰めていき、契約用の図面を作成することもできます。

実施設計をきちんとまとめたところで、要望をできる限り盛り込んだ図面では最終的に予算オーバーになることがほとんどなので、そこから予算に合わせて減額調整をしていかないといけないのです。

ここから設備のおさまりや予算によって、デザインに変更を加えていくのですけれども、設備図面が一通りそろう頃には、基本設計を基にしたラフなイメージパースも仕上がっています。

ここで3Dパースや模型などと照らし合わせながらデザインの確認をしていくのですが、この段階ではイメージと予算がしっかり頭に入ってくるはずです。
提案させていただいた資料を見ながら、どこを削り、どこに予算をかけるのかを検討していくことになります。

イメージパース -外観-

飲食店のデザイン
実際には図面とパースを行ったり来たりの打合せになるのですけれども、ここからはイメージパースを見ていただきます。

ファサードはガラスと壁によって店内を見せる部分と見せない部分を作り、何となく外から店内をうかがえる雰囲気にしています。
さらに隠れ家的な店舗をイメージしているので、外に大きな看板を出すのではなく、店内からグラデーションフィルム貼のガラス越しに見えるサインを設置することで控えめにこの店舗をアピールできればと考えています。

サインのグラフィック等のディテールはこれから考えていくのですが、こだわりの店を控えめに作ることで、今どきのインターネットを利用した、『探していただく』という店舗の形態を実店舗の物理的にも表現できるのではないかと思っています。

前面道路を通る人々に『あそこに何かあるな』と感じていただきたい。そのためには繁華街のようにぎらぎらになりすぎない程度に少し明るめにする照明計画をしているのですが、大通りから少し入ったところにある住宅地という立地において、周辺が落ち着いた感じなので明るすぎないボワッとした感じの照明計画でも十分に認識可能な店舗になると思っています。

また、厨房の排気量が多くなる飲食店では給排気の開口をどうデザインと一体化させるのかというところも課題の一つになるのですが、この店舗では外壁のサンメントを利用したモールの一部(左上の一部と右の縦長のガラリ)を給排気用のガラリとして利用しています。
給排気設備図からもわかるように右側の縦長のガラリの奥はチャンバーとして機能しています。

イメージパース -インテリア-

飲食店のデザイン
続きましてインテリアイメージです。
入口からカウンター席を隠すように建てられた、外からも見えるメインの壁にはスライストーンをイメージしています。
スライストーンとは石材を薄くスライスした仕上材で、厚み2mm以下で加工性に優れていて曲面にも貼ることが可能です。
まだそんなに仕上のバリエーションが多いわけではないのですが、うまく使えば空間に良いアクセントを加えることができるでしょう。
壁の塗装には外壁にも用いることのできるモールテックスで統一しています。
ファサードも同じ塗装仕上げであるために外観から続く一貫したイメージが調和をもたらしますが、店内に入らないと見えない厨房の壁はステンレスプレート貼として、カウンター席に座ったときに少し空間イメージに変化を加える演出をしています。

カウンターの垂れ壁にはお客さんの小物や上着を収納するための吊戸棚を備え、天井はスケルトン(天井を貼らずにスラブをむき出しにした仕上)として黒色塗装することで天井の高さを強調しています。
カウンター席もテーブル席もゆったりくつろげるソファーを置いて、料理の色や形を楽しめるように、カウンターやテーブルには配線ダクトからスポットライトやペンダントライトでその面材を浮かび上がらせています。

着工へ向けて

イメージが固まった後は、実際の仕上材の質感なんかを確認していきます。
このパースを含む基本設計に肉付けしていって設計図書を完成させながら、施工会社と契約できる図面にまとめます。

その過程で図面の説明と確認の他、仕上材のサンプルを取り寄せてオーナーに見ていただいたり、必要に応じてメーカーのショールームで大きなサンプルを確認していただいたりします。
空間は人が感じるものなので、最後は図面ではなく素材を触って感じていただき、選んでもらうということが大切になってきますし、最終的に墨出し(建てる壁の位置を現場に線を引いて示す)を行い、現場で空間の構成を体感し、最終確認していただきます。

最後に、施工会社を決めて金額調整を行い、工事契約を結べばいよいよ着工です。
日々変化する現場を楽しみましょう。

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