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地盤調査と地盤改良工事(注文住宅の設計)

地盤調査と地盤改良工事(注文住宅の設計)

地盤改良工事とは

住宅、店舗をはじめとする建築物は地盤(土地)の上に建てるのですが、そのままの地盤強度では安定しない場合に、人工的な処理を加えて、建築前に地盤をあらかじめ補強しておく工事です。

建築本体工事に含まれず、想定外の支出として扱われることの多い地盤改良工事費ですが、木造2階建ての住宅の場合で(規模や地盤の状態にもよりますが)数十万円程度かかります。
しかし、事前に近隣の過去の地盤調査の結果をみることができます。実際のところ、当該敷地で地盤調査を行わなければ確定できませんが、近隣の地盤を参考にして必要があれば注文住宅計画の初期から予算の一部として計上しておくべきです。

特に一級建築士設計事務所YMaの活動のベースになる大阪市では地盤の弱いところが多いです。 今回の記事を参考に、注文住宅を建てるためには、敷地探しの段階から意識しておくべき地盤の強さについて解説します。

地耐力について、土地購入前の調査から地盤調査まで

地耐力については土地売買契約締結前に、目処をつけておきましょう

建物を建てる場合、構造強度も当然ですが、住宅の基礎が載るその土地の地盤自身の耐力にも強度が必要です。
専門的な話になりますが、木造2階建て住宅で20KN/㎡、木造3階建て住宅で30KN/㎡、鉄骨造で50KN/㎡程度の地盤強度が必要になります。

この地盤強度については、その土地を購入するまで全然わからないというギャンブルのようなものではありません。
事前に周辺の調査結果を調査することができるので、そこから当該敷地のある程度の地盤強度の予測をたてておくことができます。もちろん、実際に地盤調査をしてみないことには確定的なことは言えないのですが、周辺の調査結果から地盤改良工事費を、全体の工事費の中に組み込んでおくべきかどうかだいたいの見当は付きます。

土地売買契約の段階で周辺土地の地盤調査結果ぐらいは調べておきましょう。
柱状改良が必要と判断されると50万円以上はかかる可能性が高いです。想定外の出費として対応するのはあまりにも準備不足ですね。
地盤改良工事の有無で建築費に使える予算が変わってくるので、当然土地売買契約前に目処をつけておくべきです。

当設計事務所では調べられる限りの情報を集めて、土地売買契約のお手伝いをしています。

地盤調査について

敷地の地耐力を調べるための地盤調査を行うことは2007年、瑕疵担保保険が義務付けられると同時に義務付けられました。
一般的な住宅の場合はスウェーデン式サウンディング試験(SWS試験、SS試験とも言います)という地盤の比較的浅い部分を調査する方法で行います。
しかし、鉄骨造であったり、大規模な建物で重量が重くなる場合はボーリング調査を求められることもあります。
費用はSWS試験が5万円程度、ボーリング調査になると30万円ほどかかります。

●戸建住宅の地盤調査に採用されることの多いSWS試験

地盤調査を依頼する先も慎重に選んでください。
地盤調査会社は地盤改良工事会社と提携している、もしくは同一会社であることが多いのです。
ということは、地盤調査会社は売上を上げる為にできれば地盤改良工事をしてほしいのです。
同じ土地だったとしても、地盤調査会社によって地盤改良が必要かどうかの判断が分かれることも有ります。地盤改良工事会社とのつながりのない地盤調査会社に調査を依頼するか、セカンドオピニオン的に別の調査会社にも依頼するか、いろいろと対策は立てておいてもいいのかもしれません。

設計者や工務店も地盤改良をしておいた方が安心だと思っているところも有ります。
当設計事務所では地盤調査は別ルートで行うこともできます。よろしければお手伝いさせてください。

地盤改良工事の種類と費用について

地盤調査によって地盤改良工事が必要と判定されると、改良工事の設計を行います。
地盤改良工事には大きく分けて3種類、木造2階建ての住宅に限れば主に2種類の工法があります。
それぞれに採用する場面と工法を解説します。

表層改良工法

地盤の軟弱な部分が地表から2m程度の比較的浅い場合に用いられる工法です。
表層部にセメント系の固形剤を、現地の土に混ぜて締め固めて強度を出します。
費用は30万円程度です

柱状改良工法

木造住宅では最も一般的な地盤改良工事です。
地中にセメントを注入しながら地盤を固めて円柱状の改良杭をつくり、建物を支える地盤改良工事です。
円柱状に地面を掘りながらセメントミルクを注入し、地中の土と撹拌して支持地盤まで到達させることで地盤を補強する工法です。
費用は60万円程度です。

小口径鋼管杭工法

現場打ちのコンクリート杭ではなく、鋼管杭を地中深くにある固い支持地盤まで打ち込むことで不同沈下を押える工法です。
木造2階建ての戸建住宅というよりも、小中規模以上の鉄骨造なんかを地盤補強する工法です。
地表から20~30Mぐらいに支持層がない場合は、摩擦杭などで対応することになります。
木造住宅ではあまり採用されません。
費用は100万円以上かかります

地盤保証

地盤調査で改良の必要なしと判定されたり、地盤改良工事を行えば、10年や20年の地盤保証が付きます。免責事項の設定にもよるのですが、これは必ずしも地震や水害等の自然災害に対する保険ではありません。
不同沈下と言って、平常時にバランスの悪い傾きが起こるような地盤沈下について地盤保証は保証しているだけで、地震、水害時の保証をしてくれないこともあります。
保証内容と免責事項を認識しておいてください。

不道沈下が保険の対象になる物件は1万件に一件といわれるほどで、ほとんどの場合は保証の対象にならないことを理解しておく必要があります。

地盤改良と六価クロムによる土壌汚染

『六価クロム』とはクロム化合物の中でも酸化数が6のものの事を指します。
これが地盤改良の時に現場の土とセメントを混ぜることで地盤に溶出するのですが、『六価クロム』は発がん性物質で土壌汚染の有害物質に指定されているのです。

●六価クロムの溶出を防ぐために『砕石パイル工法』を

どうして地盤改良によって地盤に六価クロムが溶出するのか?

もともとクロムは安定した錆びにくい金属で、コンクリートのセメントの原料の中には、毒性がなく安定した三価クロムが含まれています。しかし、セメントをつくる過程で、材料を高温で焼成するときに、この三価クロムの一部が六価クロムに変化します。

六価クロムを含むセメントですが、水や砂利と混ぜてコンクリートとして固まることで六価クロムを閉じ込めてしまう為、通常ではコンクリートから六価クロムが溶出することはありません。
しかし、地盤改良(柱状改良)の場合は現場の土とセメントを撹拌する為に、通常のコンクリートに比べてセメントの硬化が妨げられてしまいます。
この結果、六価クロムを閉じ込めることができずに地盤に溶出してしまうのです。


六価クロム溶出対策

六価クロム等による土壌汚染が確認された場合、オーナーは浄化対策の義務を負う場合があります。

環境省によって六価クロムの溶出量は0.05mg/l以下という基準値が定められていますが、セメントの硬化具合は土との相性によっても異なります。つまり現場の土との相性によっても六価クロムの溶出量が異なるのです。
六価クロムの溶出量は六価クロム溶出試験で調べることができます。

民間の工事では六価クロム溶出試験を行うかどうかは、個々の判断に任せられています。
試験を行わなくても
・六価クロム対応型のセメントを使う事で、六価クロムの溶出を十分に抑制する。
・そもそも六価クロムを含むセメントを使わず、砕石による柱状改良を選択する。

等の対応が考えられます。
●砕石による柱状改良とは?

設計者や施工業者から説明を受けた上で判断してください。

最後に

地盤改良工事に費用がかかるのは当然ですが、撤去費用はさらに高額になります。木造住宅の場合はできる限り地盤改良工事は避けたいところです。

施工方法や環境問題、撤去費用等、地盤については掘り下げると色々な話がありますが、それは別の記事で紹介していきます。
興味のある方はまたご覧ください。

執筆者略歴

[執筆者 / 監修]
三浦喜世
一級建築士
2007年から一級建築士事務所YMa主催
大阪、兵庫を拠点として店舗、注文住宅、共同住宅等の企画・デザイン・設計及び監理、中古住宅やマンションのリノベーション、オリジナル家具のデザイン・製作等を行う。
[受賞歴]
リノベーションアイデアコンペ 視点特別賞 受賞
東京デザイナーズウィークプロ作品展 出展
Design Competition in Kainan 入選
デザイントープ小論文コンペティション 入選

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