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飲食店の厨房には『ドライキッチン』も有り?『ウェットキッチン』と比較してみた

飲食店の厨房には『ドライキッチン』も有り?『ウェットキッチン』と比較してみた

飲食店の厨房は「ドライキッチン」も有り?防水工事は必要ないのか!?

大阪で店舗の企画・デザイン・設計施工を中心に活動している建築設計事務所です。
飲食店舗を設計する時にはサインや外観、さらにはダイニングのデザインも重要なのですが、料理をすることが生業の中心となる飲食店の設計で気になるのはやはり厨房です。
飲食店を作るのなら厨房の設備や仕様、使い勝手にはこだわりたいところです。
この記事では、最近注目されることの多いドライキッチンを解説することで、厨房の防水工事まで範囲を広げて解説したいと思います。

●厨房だけでなく、トータルな店舗デザイン・設計・施工をお考えならこちらの記事もお読みください。


一般的に飲食店の厨房は床に水を流して清掃します。
こういった厨房には防水工事をしておかないと、客席や下階への水漏れの原因となります。
防水層の経年劣化や施工不良で、もし水漏れしていたとしてもわかりにくくて、下階からクレームが来るまで気がつかないことも良くあります。
こうなってしまうと是正工事の為に店舗を休業しなければならなくなったり、下手すれば迷惑をかけた周辺の店舗への損賠賠償問題にまで発展してしまいます。

飲食店の設備の中でも特に重要で、オープン後に改修や是正工事が難しいのがこの厨房の防水工事です。
しかし、近頃は厨房を乾燥した状態に保つ「ドライキッチン」と言う考え方も浸透してきつつあり、飲食店といえども必ずしも防水工事が必要ではなくなってきているのです。従来通りの厨房である床に水を流す「ウェットキッチン」にたいして乾燥状態を保つ厨房を「ドライキッチン」と呼びます。それぞれの厨房の構造の解説とメリットとデメリットを比較してみました。

この記事を読んで、店舗のオペレーションの形態によりどちらの厨房を選択するのがよいのか、検討する際の参考にしてください。

●飲食店づくりには欠かせません、厨房防水工事

「ドライキッチン」とは

まだ日本ではスタンダードとは言えないかもしれませんが、新しい概念である「ドライキッチン」から説明します。
「ドライキッチン」とは、床面を含めて厨房全体を乾燥した状態に維持された厨房のことをいます。
欧米の店舗では営業中に厨房の床に水を流す習慣がほとんどなく、ドライキッチンにすることが多いそうですが、日本の飲食店では多くの店舗の厨房の床は水を流して清掃します。
どちらがいいというのはその店舗のオペレーションによるところなのですが、まずはドライキッチンの特徴を解説します。

『ドライキッチン』では基本的に営業中に厨房の床に水を流さないのでウエットキッチンのような大掛かりな防水工事は不要です。
ただし、「ドライキッチン」とは言っても全く水を流さないわけではありません。営業中に水をこぼしたり、営業後に水を流して掃除したとしてもすぐに拭き取るという考え方なので、床の仕上げにはある程度の耐水性能を担保しておくほうがいいでしょう。

「ドライキッチン」の床仕上げ

多くのドライキッチンの床の仕上げは耐水性能の高い塩ビシートなどを敷いた上に、汚れや傷に強い耐水塗料をコーティングします。
「塩ビシート」とは住宅のトイレや洗面室のような水廻りの床に多く使われているシート状の床材で、水を通さず掃除もしやすいという特徴があります。
他にもベランダや外部階段には滑り止めのエンボス付きの塩ビシートが張られていることもありますので、どんな素材なのか身近でも確認することができます。

『ドライキッチン』の床の主な仕上げ材としてあげられるのはこういった「塩ビシート」の上にコーティングして耐水性能を強化したものがあげられます。

また、床材をメインに扱っているメーカーである『ABC商会』からは床を踏んだ時だけ表面の滑り止めが露出して、荷重がなくなると床の表面が平らに戻るというとても便利な、「アルトロセーフティーフロア」という厨房床用の塩ビシートが出ています。
これの何が便利なのかというと、歩いている時には滑り止めになるのですが、床を掃除する時には平らになるのでスワイパーやモップが引っ掛かりません。下図を参照してください、滑り止めと掃除のしやすさが両立された便利な仕上げ材なのです。
防滑塩ビシート
防滑塩ビシート


「ウェットキッチン」の防水工事でも同じなのですが、「ドライキッチン」にする場合は床のコーナー部分(出隅や入隅になっているところ)の塩ビシートの施工は、水が漏れることのないように慎重に行ってもらいましょう。こういったところは水漏れが起きやすいのです。
万が一水漏れを起こしてしまうと大変なことになってしまいますから!

「ドライキッチン」の排水口

「ドライキッチン」だからと言って、床に水を全く流さないわけではありません。
大量ではないにしても営業後には、水を流して床を掃除することもあるでしょう。いちおう「ドライキッチン」の床にも排水口は付けておきたいところです。
しかし、「ウエットキッチン」のように水を流すことを歓迎するかのような側溝は逆効果と考えます。
せっかくの「ドライキッチン」なのに側溝には水がたまりがちになるし、スタッフが側溝に水を流してもいいと勘違いしてしまうかもしれません。
なので、広さにもよりますが「ドライキッチン」の排水口は排水目皿が一カ所で十分だと考えています。

「ドライキッチン」に適したグリストラップは置き式で

「ドライキッチン」でも床に排水口を付ける以上は、床上げしないといけません。
しかし、「ウェットキッチン」のように、グリストラップを床に埋め込んでしまうことはやめておいた方が良いかもしれません。
多くの「ウェットキッチン」では排水管の下に防水層があります。「ドライキッチン」では配管の下ではなくて床面が防水層になるので、その防水層の上にグリストラップを置くことをお勧めします。
シンクの下や作業台の下に置き式のグリストラップを設置するスペースぐらいは確保できるはずです。
配管が露出になってしまいますが、このほうがメンテナンスしやすい上に水漏れに気付きやすいのでお勧めです。

「ドライキッチン」の換気

「ドライキッチン」は厨房全体を乾燥状態にする必要があります。
乾燥状態を維持する為には十分な換気量を確保しなければならなく、壁や天井等の室内の仕上げもできるだけ掃除しやすく、乾燥しやすい素材を選びましょう。

ドライキッチンのメリット

ドライキッチンのメリット

床が常に濡れた状態になっていると、バクテリアが繁殖しやすくなります。
特に排水用の側溝はなかなか乾くことがありません。細菌が繁殖しやすいうえに、ネズミやゴキブリの侵入ルートにもなりやすくなります。
「ドライキッチン」では清掃時以外は乾燥しているので、細菌の繁殖をおさえる効果があり、床に設置する厨房機器の痛みも軽減することができます。

床をフラットにすることができる

水を流すウェットキッチンでは、水たまりにならないように、側溝へ向かって勾配を付けて水の流れをつくってあげる必要があります。
その為に床が斜めになっているので、長時間厨房内で働くスタッフが疲れやすくなると言われています。
また、「ウェットキッチン」では滑りにくい仕上(モルタル刷毛引き仕上等)にするとはいっても、床がぬれた状態になるためどうしても滑りやすくなります。
ドライキッチンでは水を流さないために、床に勾配を取る必要がなく床をフラットに保てますし、床が乾いているので滑りやすくはなりません。

工期が短く、安価につくれる

「ドライキッチン」の床は、耐水性に優れた塩ビシートを貼った上に、耐水性のコーティング剤を塗って仕上ます。
住宅のトイレや脱衣室の床に貼ってあるようなシートなのですが、防水工事を省くことができるので、「ウェットキッチン」に比べて工期が短縮できて費用も抑えられます。

「ドライキッチン」のデメリット

床がぬれた時に即対応する必要がある

床を乾燥状態に維持するために、水をこぼしたらすぐに拭き取らないといけません。
水も吸える乾湿両用の業務用掃除機を用意したり、換気量を増やして湿気をためないようにすることも必要です。

耐用年数が短い

「ドライキッチン」の床のシートに塗るコーティング剤の寿命は5年ほどです。それよりも短いスパンで塗り替えの対応が必要になります。
10年以上メンテナンスフリーの「ウェットキッチン」(過去に施工したシート防水なんかはメンテナンスしたことがありません)と比べて耐用年数が短く、この塗り替えは厨房機器を動かしたりしないといけないのでけっこう大変です。

「ウエットキッチン」とは

床に防水工事をすることで自由に水を流すことができる厨房です。
営業中でも水や洗剤をバシャバシャかけて、デッキブラシなどでごしごし掃除することができます。
油ってけっこう飛び散って床がぬるぬるしてきますから、油汚れの掃除はしやすいです。

●飲食店づくりには欠かせません、厨房防水工事の仕様3種

ウェットキッチンのメリット

ウェットキッチンのメリット

「ウエットキッチン」は防水処理をしているため、ホースなどで床を流して掃除することができます。清掃時間が短く済むし、水をこぼすたびに拭きとる必要もないので、料理を中心としたレストラン、特に厨房の床が油で汚れやすい店舗では「ドライキッチン」よりも「ウエットキッチン」の方がメンテナンスしやすいです。

耐用年数が長い

耐用年数5年程度の「ドライキッチン」に比べて、「ウエットキッチン」は10年以上メンテナンスフリーで使用できます。一度つくればほぼ何もメンテナンスしなくてだいじょうぶです。


ウェットキッチンのデメリット

工期が長く、費用も高い

防水工事が必要な分、「ドライキッチン」よりも工期が長くなり、費用も高くなります。
水を流すために床に勾配を付けるため、斜めになった状態で作業しなければならず、滑りにくい仕上げ(モルタル刷毛引き仕上等)を採用するのですが、それでも濡れているとどうしても床が滑りやすくなります。

菌が発生しやすい

床が濡れていることで、細菌が発生しやすくなります。
側溝には冷蔵庫のドレン等が接続されることになるので、特に側溝の中が濡れた状態を維持してしまいやすいです。

ドライキッチンとウェットキッチン、どちらを選びますか?

見てきたとおり、「ドライキッチン」のメリットとデメリットは、それをひっくり返すと「ウエットキッチン」のメリットとデメリットに対応しています。
どちらのキッチンの方が優れているということではなくて、その店舗の厨房のオペレーションによって選択すればいいのです。
多くの油を使う中華料理や洋食屋等の重飲食店では水を流せる「ウエットキッチン」の方が掃除がしやすいですし、バーやカフェであまり料理をしない軽飲食店の場合は「ドライキッチン」で十分対応できるので、防水工事をするのはオーバースペックになるのではないでしょうか。

しかし、様々な業態の店舗が集まるショッピングモールや百貨店等では、衛生上や悪臭の問題の為に、「ドライキッチン」が必須とされていることもあるかもしれません。
ドライキッチンも水を流せないわけではありませんから、そういった場合は閉店後の清掃で床の油汚れを良く落としておきましょう。

これらの他に、費用の問題もあります。
店舗を開業するには多額の費用が必要になります。少しでもその費用を抑えたいという場面が出てくることもあります。
厨房の大きさや形状にもよるので一概には言えませんが、厨房の防水工事は付随する左官工事等も含めて施工費は100万円程度、工期は1週間以上は見ておく必要があります。
当設計事務所ではあまりお勧めはしませんが、この費用を削るために「ドライキッチン」にすることもあるかもしれません。

側溝にはシンクや冷蔵庫のドレン等からの排水が流れてくるので、完全に乾燥状態になることはありませんが、衛生状態を気にして、重飲食店で「ウエットキッチン」にしている店舗でも、数日床に水を流さずに営業をされている例もありました。

一つの厨房内でも、水をよく使う調理用の厨房は「ウェットキッチン」、盛付やドリンクコーナーは「ドライキッチン」にする等分けて作ることもできます。
こうすると客席とデシャップやドリンクコーナーを行き来するホール担当者が、段差を越えて移動することなくフラットに仕事ができるというメリットもあります。
●飲食店の厨房内でウエットキッチンとドライキッチンを使い分けてみた

重飲食店でも1階の店舗であったり、毎日の清掃が徹底できている店舗であったり、「ドライキッチン」でも対応できることもあると思います。
それぞれの店舗に合った、最適な厨房をつくりましょう。

飲食店づくりを検討中の方へ

飲食店やセントラルキッチン等、業務用厨房を含む店舗の企画・デザイン・設計・施工を中心に活動している建築設計事務所です。

空間デザインでは、構造や設備、メンテナンスのしやすさやの他、店舗では集客等にも配慮し、さまざまな目的の基に提案を行い、最終的に心地良い空間を求めるものだと思っています。

当社では基本的には設計施工で承っておりますが、設計のみ、施工のみでもご相談ください。
特に大阪・兵庫を中心とした関西圏で店舗づくりを検討中の方、ぜひ当社のモノづくりのコンセプトを以下のリンクからご覧ください。

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執筆者略歴

[執筆者 / 監修]
三浦喜世
一級建築士
2007年から一級建築士事務所YMa主催
大阪、兵庫を拠点として店舗、注文住宅、共同住宅等の企画・デザイン・設計及び監理、中古住宅やマンションのリノベーション、オリジナル家具のデザイン・製作等を行う。
[受賞歴]
リノベーションアイデアコンペ 視点特別賞 受賞
東京デザイナーズウィークプロ作品展 出展
Design Competition in Kainan 入選
デザイントープ小論文コンペティション 入選

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