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飲食店の厨房には[ドライキッチン]も有り?「ウェットキッチン」と比較してみた

飲食店の厨房には[ドライキッチン]も有り?「ウェットキッチン」と比較してみた

飲食店の厨房は「ドライキッチン」も有り?防水工事は必要ないのか!?

大阪で店舗デザインを中心に活動している建築設計事務所です。
料理をすることが生業の中心となる飲食店の設計で気になるのはやはり厨房です。
サインや外観、さらにはダイニングのデザインも重要なのですが、飲食店を作るのなら厨房の仕様にはこだわりたいところです。この記事では、最近取り上げられることの多いドライキッチンを解説することで、厨房の防水工事まで範囲を広げて考察したいと思います。

店舗デザイン・設計・施工をお考えならこちらの記事もお読みください。
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飲食店で水を流して床を清掃するタイプの厨房には防水工事をしておかないと、客席や下階への水漏れの原因となります。
もし水漏れしていたとしても、わかりにくくて、下階からクレームが来るまで気がつかないことも良くあります。こうなってしまうと是正工事の為に休業しなければならなくなったり、下手すれば迷惑をかけた周辺の店舗への損賠賠償問題にまで発展してしまいます。

飲食店の設備の中でも特に重要で、オープン後に改修や是正工事が難しいのがこの厨房の防水工事です。
しかし、近頃は厨房を乾燥した状態に保つ「ドライキッチン」と言う考え方も浸透してきつつあり、飲食店といえども必ずしも防水工事が必要ではなくなってきているのです。従来通りの厨房である床に水を流す「ウェットキッチン」にたいして乾燥状態を保つ厨房を「ドライキッチン」と呼びます。それぞれの厨房の構造の解説とメリットとデメリットを比較してみました。

この記事を読んで、店舗のオペレーションの形態によりどちらを選択するのがよいのか、検討する際の参考にしてください。

「ドライキッチン」とは

まだ日本ではスタンダードとは言えないかもしれませんが、新しい概念である「ドライキッチン」から説明します。
「ドライキッチン」とは、床面を含めて厨房全体を乾燥した状態に維持された厨房のことをいます。
欧米の店舗では営業中に厨房の床に水を流す習慣がほとんどなく、ドライキッチンにすることが多いそうですが、日本の飲食店では多くの店舗の厨房の床は水を流して清掃します。
どちらがいいというのはその店舗のオペレーションによるところなのですが、ドライキッチンの特徴を解説します。

『ドライキッチン』では基本的に厨房に水を流さないので防水工事は不要です。
ただし、「ドライキッチン」とは言っても全く水を流さないわけではありません。営業中に水をこぼしたり、営業後に水を流して掃除したとしてもすぐに拭き取るという考え方なので、床にはある程度の耐水性能を担保しておくほうがいいでしょう。

「ドライキッチン」の床仕上げ

多くのドライキッチンの床の仕上げは耐水性能の高い塩ビシートなどを敷いた上に、汚れや傷に強い耐水塗料をコーティングします。
住宅のトイレや洗面室の床材の仕上げに良く使われているのが塩ビシートです。ベランダやマンションのベランダなんかには滑り止めのエンボス付きの塩ビシートが貼られていたりします。
こういった塩ビシートの上にコーティングしてで性能を強化したものが「ドライキッチン」の床の仕上げです。

また、床材をメインに扱っているメーカーである『ABC商会』からは床を踏んだ時だけ表面の滑り止めが露出して、荷重がなくなると床の表面が平らに戻るというとても便利な、「アルトロセーフティーフロア」という厨房床用の塩ビシートが出ています。
何が便利かというと、歩いている時には滑り止めになるのですが、床を掃除する時には平らになるのでスワイパーやモップが引っ掛かりません。下図を参照してください、汚れが付きにくいうえに掃除がしやすいですね!
防滑塩ビシート
防滑塩ビシート


防水工事でも同じなのですが、「ドライキッチン」にする場合は床のコーナー部分(出隅や入隅になっているところ)の塩ビシートの施工は、水が漏れることのないように慎重に行ってもらいましょう。
水漏れを起こしてしまうと大変なことになってしまいますから!

「ドライキッチン」の排水口

「ドライキッチン」だからと言って、床に水を全く流さないわけではありません。
大量ではないにしても営業後には、水を流して床を掃除することもあるでしょう。いちおう「ドライキッチン」の床にも排水口は付けておきたいところです。
しかし、「ウエットキッチン」のような水を流すことを歓迎するかのような側溝は逆効果です。
せっかくの「ドライキッチン」なのに側溝には水がたまりがちになるし、スタッフが側溝に水を流してもいいと勘違いしてしまうかもしれません。
なので「ドライキッチン」の排水口は一カ所で十分だと考えています。

「ドライキッチン」に適したグリストラップは置き式で

「ドライキッチン」でも床に排水口を付ける以上は、床上げしないといけません。
しかし、「ウェットキッチン」のように、グリストラップを床に埋め込んでしまうことはやめておいた方が良いかもしれません。
シンクの下や作業台の下に置き式のグリストラップを設置するスペースぐらいは確保できるはずです。
配管が露出になってしまいますが、このほうがメンテナンスしやすいのでお勧めです。

「ドライキッチン」の換気

「ドライキッチン」は厨房全体を乾燥状態にする必要があります。
乾燥状態を維持する為には十分な換気量を確保しなければならなく、壁や天井等の室内の仕上げもできるだけ掃除しやすく、乾燥しやすい素材を選びましょう。

ドライキッチンのメリット

ドライキッチンのメリット

床が常に濡れた状態になっていると、バクテリアが繁殖しやすくなります。
特に排水用の側溝はなかなか乾くことがありません。細菌が繁殖しやすいうえに、ネズミやゴキブリの侵入ルートにもなりやすくなります。
ドライキッチンでは清掃時以外は乾燥しているので、細菌の繁殖をおさえる効果があり、床に設置する厨房機器の痛みも軽減することができます。

床をフラットにすることができる

水を流すウェットキッチンでは、水たまりにならないように、側溝へ向かって勾配を付けて水の流れをつくってあげる必要があります。
床が斜めになっているので、長時間厨房内で働くスタッフが疲れやすくなると言われています。
また、ウェットキッチンでは滑りにくい仕上(モルタル刷毛引き仕上等)にするとはいっても、床がぬれた状態になるため滑りやすくなります。
ドライキッチンでは水を流さないために、床に勾配を取る必要がなく床をフラットに保てますし、床が乾いているので滑りやすくはなりません。

工期が短く、安価につくれる

ドライキッチンの床は、耐水性に優れた塩ビシートを貼った上に、耐水性のコーティング剤を塗って仕上ます。
住宅のトイレや脱衣室の床に貼ってあるようなシートなのですが、防水工事を省くことができるので、ウェットキッチンに比べて工期が短縮できて費用も抑えられます。

ドライキッチンのデメリット

床がぬれた時に即対応する必要がある

床を乾燥状態に維持するために、水をこぼしたらすぐに拭き取らないといけません。
水も吸える乾湿両用の業務用掃除機を用意したり、換気量を増やして湿気をためないようにすることも必要です。

耐用年数が短い

ドライキッチンの床のシートに塗るコーティング剤の寿命は5年ほどです。それよりも短いスパンで塗り替えの対応が必要になります。
10年以上メンテナンスフリーのウェットキッチンと比べて耐用年数が短く、この塗り替えは厨房機器を動かしたりしないといけないのでけっこう大変です。

ウエットキッチンとは

床に防水工事をすることで自由に水を流すことができる厨房です。
営業中でも水や洗剤をバシャバシャかけて、デッキブラシなどでごしごし掃除することができます。
油ってけっこう飛び散って床がぬるぬるしてきますから、油汚れの掃除はしやすいです。

飲食店づくりには欠かせません、厨房防水工事の仕様3種

ウェットキッチンのメリット

ウェットキッチンのメリット

ウェットキッチンは防水処理をしているため、ホースなどで床を流して掃除することができます。清掃時間が短く済むし、水をこぼすたびに拭きとる必要もないので、料理を中心としたレストラン、特に厨房の床が油で汚れやすい店舗ではウェットキッチンの方がメンテナンスしやすいです。

耐用年数が長い

耐用年数5年程度のドライキッチンに比べて、ウェットキッチンは10年以上メンテナンスフリーで使用できます。一度つくればほぼ何もメンテナンスしなくてだいじょうぶです。


ウェットキッチンのデメリット

工期が長く、費用も高い

防水工事が必要な分、ドライキッチンよりも工期が長くなり、費用も高くなります。
水を流すために床に勾配を付けるため、斜めになった状態で作業しなければならず、滑りにくい仕上げ(モルタル刷毛引き仕上等)を採用するのですが、濡れているために床が滑りやすくなります。

菌が発生しやすい

床が濡れていることで、細菌が発生しやすくなります。
冷蔵庫のドレン等が接続されることになるので、特に側溝の中が濡れた状態を維持してしまいやすいです。

ドライキッチンとウェットキッチン、どちらを選びますか?

見てきたとおり、ドライキッチンのメリットとデメリットは、それをひっくり返すとウェットキッチンのメリットとデメリットに対応しています。
どちらのキッチンの方が優れているということではなくて、その店舗の厨房のオペレーションによって選択すればいいのです。
油を使う中華料理や洋食屋等の重飲食店では水を流せるウェットキッチンの方が掃除がしやすいですし、バーやカフェであまり料理をしない軽飲食店の場合はドライキッチンで十分対応できるので、防水工事をするのはオーバースペックになるのではないでしょうか。

しかし、様々な業態の店舗が集まるショッピングモールや百貨店等では、衛生上や悪臭の問題の為に、ドライキッチンが必須とされていることもあるかもしれません。
ドライキッチンも水を流せないわけではありませんから、そういった場合は閉店後の清掃で床の油汚れを良く落としておきましょう。

これらの他に、費用の問題もあります。
店舗を開業するには多額の費用が必要になります。少しでもその費用を抑えたいという場面が出てくることもあります。
厨房の大きさや形状にもよるので一概には言えませんが、厨房の防水工事は付随する左官工事等も含めて施工費は100万円程度、工期は1週間以上は見ておく必要があります。
当設計事務所ではあまりお勧めはしませんが、この費用を削るためにドライキッチンにすることもあるかもしれません。

側溝にはシンクや冷蔵庫のドレン等からの排水が流れてくるので、完全に乾燥状態になることはありませんが、衛生状態を気にして、重飲食店でウェットキッチンにしている店舗でも、数日床に水を流さずに営業をされている例もありました。

一つの厨房内でも、水をよく使う調理用の厨房は「ウェットキッチン」、調理用の厨房は「ドライキッチン」にする等分けて作ることもできます。
飲食店の厨房内でウエットキッチンとドライキッチンを使い分けてみた

重飲食店でも1階の店舗であったり、毎日の清掃が徹底できている店舗であったり、ドライキッチンでも対応できることもあると思います。
それぞれの店舗に最適な厨房をつくりましょう。

執筆者略歴

[執筆者 / 監修]
三浦喜世
一級建築士
2007年から一級建築士事務所YMa主催
大阪、兵庫を拠点として店舗、注文住宅、共同住宅等の企画・デザイン・設計及び監理、中古住宅やマンションのリノベーション、オリジナル家具のデザイン・製作等を行う。
[受賞歴]
リノベーションアイデアコンペ 視点特別賞 受賞
東京デザイナーズウィークプロ作品展 出展
Design Competition in Kainan 入選
デザイントープ小論文コンペティション 入選

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