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店舗の設備スペック ~店舗物件の現地調査は設計者と共に~

店舗の設備スペック ~店舗物件の現地調査は設計者と共に~

店舗づくりといえば設計事務所やデザイン事務所に依頼して、おしゃれなこだわりインテリアデザインに夢が膨らみがちです。
勿論見た目のデザインは重要なのですが、それは店舗デザインの一つの側面にすぎません。
お店づくりのプロジェクトの初期段階では電気、給排水、給排気、ガス、防災等の設備容量のチェックも重要になります。 まずは飲食店や美容室、ネイルサロン、物販店やオフィス等、仲介の不動産会社にどういった店舗を作りたいのか伝え、設備について確認しましょう。そして、それをふまえて物件の現地調査です。

物件の現地調査

店舗現調
店舗の物件選びでは設備をはじめとした現地調査を行う必要があります。
物件の広さや形状、排水設備の位置これをおろそかにすると、理想の店を稼働させる為の設備がそろわないという事になりかねません。

過去には、事務所仕様のビルを用途変更(※)してまで飲食店や美容室を作りたいという依頼もあったのですが、そういった既存の用途と異なる設定の店舗を作る時には特に注意が必要です。
事務所よりも店舗の方が設備を充実させていなくてはいけません。元々事務所として作られた空間で店舗を作るとなると設備の容量が足りなくなることが考えられるのです。
ガスに関しては、引き込まれていないオフィスビルもあります。
それぞれの設備を個別に見ていきましょう。

(※)用途変更とは、現在設定されている用途とは異なる用途で建物を使用する場合、建築基準法に則って、適法に建物を改修し用途を変更する手続きをしなければいけません。

電気設備

店舗の現地調査
電気は主に照明、エアコン、厨房機器等に使う設備です。美容室やクリニック等ではシャンプー台や専門の医療機器にも必要になります。
店舗で使う電気には電灯(単相3線式)、動力(三相3線式)という二つの配電方式があります。

『電灯』は住宅でも使われているように身近な配電方式で、主に照明、家庭用エアコン、厨房機器等に、『動力』は業務用エアコン、厨房機器等に使われます。
『電灯』『動力』は別々に引き込まれていて、メーターも電灯用と動力用の二つ付いていて、それぞれに容量の制限があります。

例えばですが、飲食店で各テーブルに消費電力の大きいIHコンロを付けたりしたら、電灯の容量が一気に圧迫されてしまいます。そういった時は厨房機器やエアコンの電源を動力に回してバランスを取る等の対応が必要になります。

事務所仕様のビルの場合、店舗を作るには電気容量が足りないこともあります。
そういった物件で店舗を作るには、場合によっては電気容量を上げなくてはいけません。高圧で電力を引きこむ為に、キュービクルが必要になる事もあります。キュービクル導入には一般的に200万円以上かかります。
電気容量は事前にチェックして、足りないことが想定される場合はその対応も含めて賃貸契約を結ぶ必要があります。

給排水設備

給水容量は水道メーターを確認します。
多くの物件では13mm,20mm,25mmサイズのメーターが使用されていると思います。
このメーターサイズによって使用できる蛇口や設備の数が決められています。できれば20mm以上ほしいところです。

給排水設備では特に排水の位置を確認しておく必要があります。
トイレの他、飲食店では厨房の位置、美容室ではシャンプー台の位置等が排水の位置によって限定されてくることがあるからです。

水圧のかかっている給水管と違って、排水管は勾配をつけて流れていくようにしなければなりません。最終の接続場所までの距離が長ければ、床を上げる高さと範囲が増えて天井高が低くなります。こうなれば水漏れのリスクも高まりますし、施工金額も上がります。
排水管はできるだけ短い方が良いですよね。

排水口の位置にも配慮して全体のプランを計画しましょう。

給排気設備

給排気設備
排気設備で最も大きいのは飲食店の厨房のレンジフードです。焼肉店や焼き鳥店で各テーブルにフードを置く場合の換気量も大きくなります。
特に飲食店で換気量が大きくなる傾向にあるのですが、その換気量を確保する為に換気扇の吹き出し口を確保しないといけないのは当然なのですが、排気量に見合った給気量も確保しなければいけません。

この給気の方法にはいろいろなやりかが他あるのですが、どういう方法を選ぶにしても壁に給気口があいている必要があります。
まずはこの給排気口があるかどうかを確認しましょう。
給排気の為の開口がなければ開けなければなりませんが、これは勝手にしてもいい工事ではなく、図面等で開口の位置と大きさを示し、建物の管理者の了解を得る必要があります。

次に排気経路も確認したいところです。
排気口からは煙や臭いが排出されるので、その位置や向きにも気を使っておかなければ近隣からのクレームの基になってしまいます。多くの場合は、ダクトを屋上まで立ち上げて、換気扇を屋上に設置して排気します。
ダクトを屋上まで立ち上げるには足場が必要になったりと、排気経路によっても金額が大きく異なるので、重要な確認事項です。

ガス設備

美容室やクリニックでは主に給湯器にガスを使う程度ですが、多くの厨房機器を導入する飲食店では、ガスも厨房で容量が足りなくなることが多い設備です。

テナントビルの場合、そのビルごとに容量が決まっていたりもします。
ガスの引き込みに加え、ビルの共用ガス配管を入れ替えるぐらいの覚悟があれば別ですが、そんなことは現実的ではありません。ビル全体のガス容量が決まっているので、全体のバランスから各テナントで増やせるガス容量が決まってきます。

ガスコンロをIHに変更する等、ガス機器を電気機器におきかえるというのも一つの方法なのですが、これも電気容量との関係ですね。
料理人さんによっては厨房機器にもこだわりがあるのでなかなか難しい判断になります。

できるだけゆとりのあるガス容量を確保した物件を探したいところです。

防災設備

床面積や収容人員等によって必要な防災設備は決められています。
前の店舗の用途と同じ用途で使うのなら大きな問題は起こりませんが、事務所→店舗等のように用途変更を含む計画の場合は大きな工事を必要とすることがあります。
例えば、スプリンクラーを設置するとなると数千万円かかります。現実的にはこんな予算は取れないので、別の物件を探すことになりますね。

正式にはプランができてから消防署に事前相談に行くのですが、設計者だったら現地調査の段階である程度の目処は付いているはずです。

居抜き物件

良い具合の居抜き物件を見つけることができれば幸運です。
元々の店舗のデザインや設備を利用しながら、最低限の工事で済ますことができる為安価に店舗をオープンさせることができます。
●居抜き物件で格安で店舗をオープンできた例

しかし、居抜き物件にも落とし穴があります。
劣化が激しかったり、既存店舗の施工の状況が悪い為、既存部分を全然使えなかったりすることがあるのです。そうなると既存利用で施工費を抑えるどころか、解体・処分費が余計にかかってきてしまいます。
●状態が悪い居抜き物件で、解体が必要だった例

こういったところも契約前の現地調査で確認しておきましょう。
一般的な契約では、退去時にはスケルトン状態にして返すのが通常です。使えない居抜きの場合は、解体費をどちらが持つのかも話し合いが必要です。

現地調査のまとめ

店舗デザインにおいて物件を決定する現地調査はとても大切です。
採光や形状や広さ等の空間の把握の他、設備の状況を確認しておくことによって、その後のトラブルを防ぐことができます。

店舗のイメージも固まっていないのに、設備までなかなか頭が回らないと思いますが、難しく考えずに、ある程度こういう料理を作りたい、その為にこういう厨房機器を使いたい、そんな程度のイメージがあればそれで事前調査は可能です。

思い描いている空間デザインが実現できたとしても、必要な設備が整っていなければ、そこで店舗を運営していくことはできません。プロジェクトが動き始めたら、できるだけ初期に設計者を決めて、現地調査にも同行してもらう事をお勧めします。

当設計事務所では物件探しから相談を受けており、契約前の調査から同行してアドバイスをさせていただいています。
物件探しには、立地や家賃、保証金等の条件も大切ですが、契約前に設備についても良く確認しておきましょう。

執筆者略歴

[執筆者 / 監修]
三浦喜世
一級建築士
2007年から一級建築士事務所YMa主催
大阪、兵庫を拠点として店舗、注文住宅、共同住宅等の企画・デザイン・設計及び監理、中古住宅やマンションのリノベーション、オリジナル家具のデザイン・製作等を行う。
[受賞歴]
リノベーションアイデアコンペ 視点特別賞 受賞
東京デザイナーズウィークプロ作品展 出展
Design Competition in Kainan 入選
デザイントープ小論文コンペティション 入選

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