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空間デザインにおける照明計画の基礎知識

空間デザインにおける照明計画の基礎知識

店舗に限らず、インテリア・エクステリアにかかわらず空間デザインに多くの影響を及ぼすのが照明計画です。
造形的なデザインもさることながら、それ以上に空間の印象は明るさや色温度、光の当て方でイメージが大きく変わります。
ここでは店舗デザインに必要な照明の基礎知識のあとに照明デザインの事例を紹介したいと思います。

照明デザインの基礎知識

光束 lm (ルーメン) [電球の明るさを示す] 

光束[lm (ルーメン)]とは、ある面を通過する光の明るさを表すものです。

照明器具から発せられる光の明るさを表現しているのですが、電球の明るさをW(ワット)で表現する方がなじみがあると思います。しかしW(ワット)とは電気エネルギーの消費量なので、照明器具の明るさは光束[lm (ルーメン)]で判断したほうが良いです。
特に電球がLED化してからは消費電力が少なくなったので、同じ光束(光の明るさ)であったとしても、白熱電球とLED電球では消費電力が全然違います。
それでも感覚的にわかりやすいように、LED電球のパッケージにもW(ワット)で明るさを表現していますが、『100W相当』のように、実際の消費電力ではなく白熱電球に例えた消費電力が大きく記載されています。

カタログやパッケージにはlm(ルーメン)も併記されているので、電球の明るさはlm(ルーメン)で確認することをお勧めします。

照度 lx (ルクス) [テーブル面の明るさを示す] 

照度(lx)とは物体の表面を照らす光の明るさを表したものです。
その場所の明るさを示していて、同じ照明器具でも、その器具からの距離が離れるほどに照度(lx)は低くなります。
照度(lx)は一般的に空間の明るさを表現するのに使われている単位で、JISでも空間の用途別に推奨照度が設けられています。例えば事務室→750lx、厨房→500lx、レストラン客室→200lxといった感じです。

当設計事務所では、照明プランを作成する場合は、照明器具の配置と共にテーブルの上の明るさを基準とした照度分布を合わせて提出しています。

輝度 cd/㎡(カンデラ毎平方メートル) [テレビや携帯電話の画面の明るさを示す] 

輝度とは光源の単位面積当たりの明るさを言います。
光束は照明器具全体の明るさを示し、照度は光に照らされた面の明るさを示しているのに対して、輝度は単位面積当たりの光源の明るさを示しています。
輝度と光束の違いが非常に難しいのですが、光束が全体の明るさを示しているのに対して、輝度は単位面積当たりの明るさを示しています。なので同様の蛍光灯型の照明器具で輝度は同じでも、ランプの長さが長くなれば、光束は大きくなるのでランプは明るくなります。

照明器具の明るさは光束を用いて表し、輝度はテレビや携帯電話の画面の明るさを示すのに利用されることが多いです。

色温度 K(ケルビン) [電球色から昼白色まで照明の色を示す] 

照明についている色を数値で表したものが色温度です。
色温度はK(ケルビン)であらわされ、数値が高いほど青みが強く、低いほど赤みが強くなります。
『昼光色』→約6500K、『昼白色』→約5000K、『白色』→約4200K、『温白色』→約3500K、『電球色』→約3000Kといった具合になります。


飲食店では電球色から温白色あたりの色温度の光が好まれます。ムードを演出するなら電球色、家族で食事を楽しむのであれば温白色といった具合ですね。バーでは電球色が、ファミリーレストランでは温白色が好まれるのではないでしょうか。

近頃では光の強さを調整する調光機能だけではなく、色温度も調整することのできる調色機能が付いた照明器具もあるので、昼と夜といった時間帯によって色温度を変えることも可能です。

演色性 Ra(平均演色評価数)

光が物体を照らした時に、その物体の色の見え方に影響を及ぼす光源の性質のことを言います。
照らす光源によっては、同じ色が違って見えることがあります。この色の再現性を演色性といい、太陽光の元で見た色の見え方に近い照明ほど演色性が良いと言えます。

演色性の低い照明の場合、色がくすんで見えることがあります。
店舗の場合、商品の色がくすんで見えるよりも、鮮やかに見えたほうが印象が良くなります。
一般的にRa80以上で高演色と言われています
が、見え方へのこだわりが強いのであればより高い演色性をもつ照明器具を選んでもいいと思います。
料理がおいしく見えたり、商品が魅力的に見えたり、美容サロンではくすまずくっきり見えるのでお客様に満足してもらいやすくなったりしますから。

基礎知識のまとめ

店舗のイメージを印象付ける照明計画ですが、照度と色温度が特に重要ではないでしょうか?
飲食店なら、落ち着いた雰囲気を作るのか、わいわい楽しむことのできる雰囲気を作るのか?
事務所であれば、クリエイティブな仕事をするのか、定型業務のような事務的な仕事をするのかによって空間のイメージは変わると思います。

今は同じ照明器具でも色温度を変えることのできる器具も販売されています。
昼間は温白色、夜は電球色と時間によって色温度を変えることで、適切な雰囲気を作ることもできます。

主な照明器具の種類

注文住宅や店舗デザイン、リノベーションといった分野に関係なく照明器具は必要になります。
インテリア、エクステリア、どの空間にも必ず導入される照明器具の種類を見ていきましょう。

ダウンライト

ダウンライト
天井に埋め込んで設置する小型の照明器具です。照明器具が主張することなく、天井面をフラットに見せることができて、メイン照明としても局所照明としても使用することができます。
適度に配置することで、部屋全体の照度を一定に保つことができるし、スポットライトの要素も兼ね備え、ピンポイントに照らすことのできるユニバーサルダウンライトなど、
光の落とし方のバリエーションが多くて様々な用途で使えます。

スポットライト

スポットライト
目立たせたい部分に光を当てることができます。
ピンポイントに照らすことができるので演出効果が高く、特に店舗で良く使われる照明器具です。
意図的に商品や食卓を照らすことができる他、壁や天井を照らすことで間接的な光を落とすこともできます。

ペンダントライト

ペンダントライト
天井から吊下がっている照明で、明るさを確保するというよりも、デザインが豊富で、その見た目でインテリア空間にアクセントを与えます。
テーブル上部等に使用することでその空間を彩り、席を切り取って個室感を上げる役目を果たすこともあります。

ブラケットライト

ブラケットライト
玄関や廊下、階段等で良く使用される、壁に設置する照明です。
デザインの幅が広く、器具の持つ雰囲気によって空間のイメージを決定づけるポテンシャルがあります。
また、直接光を見せない構造のものもあるので、壁や天井に細工をしなくても間接照明としての効果も期待できます。

シーリングライト

シーリングライト
天井に直接設置する照明で、住宅で多く使われています。
住宅のLDKや個室等では天井に引掛けシーリングを設置しておいて、入居後に器具を購入して取り付ける場合がよくあります。設置や交換が簡単な為、住宅で特に人気のある照明器具です。

ベースライト

ベースライト
オフィスや医療機関などの施設、学校等でよく採用される照明器具です。
天井に設置して室内全体を照らす照明として使用されます。
形状も逆富士型、トラフ型、反射型や笠付型等様々あり、取付方法も直付けや埋め込みと選択できます。
よく見かける照明器具なのですが、バリエーションは豊富にあります。

配線ダクト

配線ダクト
照明器具ではありませんが、「ライティングレール」や「ダクトレール」とも呼ばれる、スポットライトやペンダントライトを取り付ける為の装置です。
配線ダクトは主に天井に直接設置したり、天井から吊下げたりして設置しますが、レールのどこにでも照明器具を取り付けることができるので、簡単に照明器具を増やしたり、移動させたりすることができるので、空間の流動性が上がります。

引掛けシーリングに簡単に取り付けることのできるタイプもあるので、飲食店や美容室等の店舗だけでなく、住宅のインテリアをおしゃれに飾るツールとしても注目されています。

照明器具の種類のまとめ

この他にも薄暗い足元を照らす足元灯やコンセントがあればどこにでもおけるスタンド、ゴージャスなシャンデリア等多くの照明器具があります。
今はほとんどのものがLEDランプにおきかえられていますが、明るさや色温度の他、ランプにも光の広がり方が広角なものから狭角なものまであり、照明選びには迷わされることが多いです。
また、照明器具には屋外用と屋内用があるのでそこにも注意して、デザインや機能・設置する場所に合わせて最適なものを選んでください。

照明デザインのプラン事例(注文住宅)

大型のシーリングライトを使わずに住宅のLDKの照明をデザインしてみました。

戸建、マンションに関わらず、多くの住宅では引渡時に玄関、廊下、洗面脱衣室、トイレにはダウンライトが設置済みで、LDKや寝室には引掛けシーリングがついていています。
その引掛けシーリングには、入居後に建築主が照明器具を購入して取り付ける。
こういう照明計画になっているのではないでしょうか?

大きなシーリングライトだけだと、明かりが均一に室内を照らすだけです。言いかえると照度の確保だけの為の照明になっているのです。
家事・勉強等の作業、食事・団欒やその後のリラックスタイムといった、時間帯によって明かりを使い分け、作業効率を上げたり、ムードや陰影を楽しむことができません。
注文住宅をつくるなら照明デザインにも徹底的にこだわりましょう。
ここからは当設計事務所でデザインした、中古マンションのリノベーション例です。

照明計画に使用した照明器具

照明プラン
LDKの照明計画を見てみましょう。
使う照明器具の種類は下記の6種類です。
・裸電球のペンダントライト
・小型で薄型のシーリングライト
・キッチンの間接照明
・キッチンの棚下灯
・配線ダクトに取り付いているのに、アプリで個別に入切や調光調色できるスポットライト
・配線ダクト
シーリングライトはダウンライトの代用です。梁下に取り付けたので、高さを確保しようとするとダウンライトを設置するスペースが取れなかったのです。
コイズミ照明でいい感じの薄いシーリングライトがあったので採用しました。

照明器具の配置

まずは照明器具の配置を見ていきましょう。
玄関からベランダまで、居住空間の中心を通る梁下にはダウンライトの代用であるシーリングライトを配置しています。
リビングやダイニングとなることを想定した位置には、配線ダクトを設置することで照明器具の位置を微調整できるようにしています。この配線ダクトにはペンダントライトを取り付ける予定です。
キッチンにはステンレスの吊戸棚にオプションで取り付け可能な棚下灯とレンジフードの明かりで照度を確保し、キッチンとL型に配置したカップボードには間接照明を組み込んでいます。

スイッチの系統分け

さらにスイッチの系統を見ていきましょう。スイッチの系統分けも照明器具の配置と同じぐらい大切になってきます。

この住宅では配線ダクト、シーリングライト、キッチン部分で分けています。
その中でも配線ダクトは一本づつそれぞれにスイッチがついていて3系統に分かれています。リビング×2、ダイニング×1ですね。
このスイッチの系統分けが照明デザインに大きく影響を与えてくるのです。

大きなシーリングライト1台か2台で明るさを確保することの多いLDKですが、この住宅の照明計画ではシーリングライトだけでも、ペンダントライトだけでも団欒・リラックスタイム用の照度はある程度とれるのです。
大型のシーリングライトのようなパワフルで均一な明かりではなく、スイッチの入切でシーンに合わせて、照度をセーブしたやわらかな明かりで空間を調整することができます。


照明プラン事例01
照明プラン事例01
シーリングライトとダイニングの配線ダクトだけ点灯しています。配線ダクトにはテーブルに向けてスポットライトが点いているので、これだけで十分にダイニングテーブルでパソコンで作業する照度は取れます。

照明プラン事例02
照明プラン事例02
LDKの照明を全開にしています。家族団欒の時のイメージです。

照明プラン事例03
照明プラン事例03
子供の就寝後、印象的なイメージのペンダントライトでリビングで晩酌です。

照明プラン事例04
照明プラン事例04
シーリングライトだけでもそれなりの照度になります。こんな感じで映画を見たりできます。

照明プラン事例05
照明プラン事例05
就寝時にはペンダントライトを一つだけ点けています。

個別に入切、調光調色ができるスポットライト

配線ダクトに取り付けたスポットライトですが、これはピンポイントにダイニングテーブルやローテーブルを照らす光がほしいということで後から付けました。
遠藤照明のスポットライトなのですが、スマホのアプリで配線ダクトの他のライトとは別に点灯・消灯したり、調光調色ができるのでたいへん便利です。
明るさの調整ができるのは勿論、白色から電球色まで色温度も変えられるのが良いですね。
この住宅を施工していた時には、まだ発売されていませんでした。

プラン例の最後に

家族そろっての食事中~家族の団欒の時間は照明全点灯で、子供が寝た後の夫婦の時間は印象的なペンダントライトだけを点けてゆったりお酒を飲んだり、静かなシーリングライトをバックに映画を見たりと、シーンによって明かりを楽しむことができます。

演色性ならコイズミ照明、調光調色なら遠藤照明という印象です。店舗用の照明器具に特化した遠藤照明ですが、このスポットライトのようにアプリで調光調色ができる照明器具はダウンライトもペンダントライトも有ります。
パナソニックのイメージが強い住宅用の照明器具ですが、店舗用の照明器具で揃えてみても面白そうですね。

最後に一つ、スイッチをLDKの入口のところに集中させましたが、キッチンの照明だけはキッチンに立った時に手の届く範囲にほしかったです。

執筆者略歴

[執筆者 / 監修]
三浦喜世
一級建築士
2007年から一級建築士事務所YMa主催
大阪、兵庫を拠点として店舗、注文住宅、共同住宅等の企画・デザイン・設計及び監理、中古住宅やマンションのリノベーション、オリジナル家具のデザイン・製作等を行う。
[受賞歴]
リノベーションアイデアコンペ 視点特別賞 受賞
東京デザイナーズウィークプロ作品展 出展
Design Competition in Kainan 入選
デザイントープ小論文コンペティション 入選

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