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戸建注文住宅は全館冷房にするべきか?

戸建注文住宅は全館冷房にするべきか?

商業施設や医療施設などでは一般的に採用されているダクト式の全館空調ですが、木造戸建住宅用の全館空調の商品も売り出されています。
宣伝力が強いのでハウスメーカーの全館空調が目につきますが、設計事務所とつくる注文住宅に採用できる全館空調の商品も多数あります。

従来の壁掛けエアコンによる個別空調との違いは、リビングや寝室等の居室の他、廊下を含んで洗面脱衣室やトイレ等も一定の温度に保つことができるところだと言われています。
いろいろなタイプの全館空調方式があるのですが、その空調方式をいくつか解説してから、メリット・デメリットを考えてみたいと思います。

全館空調の方式 4選

天井吹き出し型(ダクト式)

天井吹き出し
エアコンから、天井内に通したダクトを通じて温度調節された空気が各室に送られていきます。
ダクト工事が必要になるというデメリットはありますが、吹き出し口の調整によってそれぞれの各部屋を快適な温度に保つことができるのがメリットです。
また、空調と同時に換気も行うのですが、熱交換型換気扇によって、夏は室内の冷やされた排気によって冷やされた新鮮な外気を、冬は室内の暖められた排気によって暖められた新鮮な外気を、エアコンに送ることによって換気による熱損失を低減します。

壁掛けエアコン型(ダクトレス式)

壁付けエアコン
機械室を設けてそこに壁掛けエアコンを設置することで機械室内の空調を行い、調整された空気を送風ファンによって天井や床下に送り、そこをチャンバーとして利用し、給気口から各部屋に空調を行います。
専用のエアコンではなく壁掛けエアコンで可能なシステムなので、空調機が安くつきますし、屋根と基礎の断熱と気密を確保すればダクト工事も必要ありません。
デメリットはダクトで各室に直接空気を送り込む場合と比べて、設置費用は押さえられますが、空気の流れを制御することが難しく、うまく設計しないと空調の安定感という面ではダクト型に劣ることが予想されます。

床下冷暖房型

床下冷暖房
基礎断熱を施した床下に、空調された空気を送り込み、床からの輻射熱とガラリ、ダクトによる送風で家全体を暖めます。
デメリットは2階の空調はダクトが必要になることと、プランに合わせた空気の循環を設計することが難しくなります。

壁パネル型

壁パネル
壁に冷暖房パネルを設置し、パネルからの輻射熱で家全体を冷暖房します。
各室にパネルを設置すれば比較的温熱環境は安定しそうですね。ただし、設置費は比較的高くなりそうです。

全館空調方式を比較してみた

全館空調の中でも最も効率よく、プランの制限がないのが天井吹き出し型でしょう。ダクトで直接各室に冷暖房された空気を供給できて、その吹き出し量も調節可能です。

壁掛けエアコン型(ダクトレス)では、天井裏と床下を温めて、給気口からその空気を各室に送ります。ダクト工事の分のイニシャルコストを抑えることはできますが、住宅内全体の温熱環境を安定させるにはプランの制限を含めてしっかりとした計画が必要ですね。
機械室からダクトで各部屋へ空調された空気を送るという、壁掛けエアコンとダクトを組み合わせた中間的な設備も考えられます。

ダクト型が空調効率は良さそうなのですが、ダクトの配管スペースが必要になります。
木造住宅の場合、梁に穴をあけて貫通させるわけにはいかないので梁下にダクトスペースを取ることになるのですが、そのために同じ天井高を確保するためには階高を20cm~30cm程あげる必要があります。

床下冷暖房は冬はこれでいけそうな気がしますが、冷やされた空気が下にたまりがちな夏は機能させるのが難しそうです。
壁パネル型は各室にパネルを設置したら温熱環境を安定させることはできそうです。
ただ、設置費用は高くつきそうですし、換気は別で設置する必要がありますね。

全館空調のメリット

1年を通して家中を均一の温度に保てる

全館空調では家中の温度を均一に近づけられるのが一番のメリットと言えるでしょう。
夏に2階だけ暑くなることがないので、寝室が2階にあっても夜寝苦しくない、
冬の廊下や脱衣室も寒くないのでヒートショックを予防できる、等健康面でもメリットがあります。

室内外に設置する冷暖房機器が少なく済む

冷暖房機器は室外機も室内機もけっこう目障りになるので、機器を隠したりするデザインもあるのですが、これがショートサーキットの原因になってしまうこともあります。
全館空調の室内機は機械室内に設置されているので露出することが少なく、基本的に1~2台程度の機器で空調するために室外機も少なく済みます。
これによって外観もインテリアも安心して見た目をすっきりさせることができます。

※ショートサーキット:エアコンの室内機や室外機の吹き出し口から吹き出された空気を、すぐに吸い込んでしまう現象です。空気を効率よく取り込むことができずに、電気代が高くなったり、エアコンの運転が停止してしまったりします

室内空気を清浄に保つことができる

全館空調は第一種換気もシステムに組み込まれているものが多くて、清浄な室内空気環境を保ちやすいです。

※第一種換気:給気口と排気口の両方にファンが取り付けられていて、強制的に換気を行うシステム
※第二種換気:給気口にファンを取り付け、排気口は自然排気とするシステムです。
一般的な住宅では採用されませんが、病院のクリーンルームなどに採用されます。
※第三種換気:給気口は自然給気として、排気口にファンを設置する一般的に住宅で採用される換気システムです。

全館空調のデメリット

初期の導入費用が高額

40坪4LDKの一般的な戸建住宅で比べると、壁掛けエアコン5台と床暖房を導入して初期費用はおよそ120万円程度とすれば、全館空調はその方式にもよりますが、100~300万円程度かかることが想定されます。

高気密高断熱住宅にする必要がある

住宅を高気密高断熱とする必要があります。
高気密高断熱になっていれば局所空調でも空調効率が上がってメリットがあるのですが、
全館空調では高気密高断熱住宅になっていなければ、各室の温熱環境を一定に保つことが難しくなります。一定ではない室内の温熱環境を空調するには部屋ごとに温度差をつけられない全館空調は向いていません。
全館空調は高気密高断熱とセットで考えるべきでしょう。

ランニングコスト(メンテナンス代・電気代)が高い

メンテナンス費用がかかります。
今出ている全館空調は商品だけ売って終わりではありません。登録された工務店やハウスメーカー経由で販売を行い、設置とメンテナンスまでメーカー施工で行っています。
このメンテナンス費用やフィルターなどの交換費用が掛かります。
個別エアコンでも清掃などのメンテナンスが推奨されるので、あまり変わらないかもしれませんけど。。。

電気代が高くなるには住宅の気密性能、断熱性能によるところもあったり、エアコンの設定温度や使用頻度など、様々な要因があるのですが、
24時間家中を冷暖房する全館空調では、一般的に局所空調よりも電気代が高くなりがちです。

また、故障すると家中の空調が止まってしまうのもデメリットと言えるでしょう。

乾燥しやすい

高気密高断熱になっている全館空調の住宅では、冬に高い温度設定となる為に乾燥しやすいと言われています。
加湿機能付きの全館暖房もあるので、気になる方はそういったものを選んでもいいかもしれません。

臭いが家中に行きわたる

一台のエアコンで家中の気温を一定に保つ全館空調は、たばこやゴミなどの悪臭が家中に行きわたりやすくなります。もちろん換気機能付きなので時間がたてば臭いも解消しますが、できれば臭いの発生源となるよう場場所には局所的に換気扇があったほうが良いかもしれません。

個別制御がやりにくい

住宅を高気密高断熱にしなければならない理由の一つにもあげました。
採用する空調方式にもよるのですが、全館空調は局所空調よりも各部屋の空調を個別制御しにくくなっています。
特にダクト式でなければ個別制御はより難しくなってしまいます。

個別空調との比較-どちらを選択しますか?-

それぞれの住み方があるので一概には言えませんが、設計者としては戸建住宅は個別空調でいいと思っています。

その根拠は
現代の生活様式では、毎日一日中家に人がいるということが少なくなってきています。
24時間空調をつけっぱなしにしておくのももったいないような気がします。
次に、室内の温熱環境の一定化については、引戸を多用すればゾーニングプランによって扉の開け閉めである程度対応できると考えています。個別空調でもヒートショックが起こる場所として心配される脱衣室にも暖かい空気が届くような設計は可能です。

生活様式と費用に配慮して、全館空調か個別空調か、最初によく考えて設計しましょう。
新築時でないと全館空調は設置しづらいですよ!

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