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戸建て住宅や共同住宅(マンション)の駐車場・駐輪場の増築を考える

戸建て住宅や共同住宅(マンション)の駐車場・駐輪場の増築を考える

一戸建ての住宅でもマンションでも建築物は大切な資産となります。そんな建築物も時間と共に売却価値は下がってきてしまうのですが、出来るだけ良い状態で保存して価値が下がりにくくしたいものです。
そのためには中古物件の現状を把握しておくことも重要です。
この記事では共同住宅の駐輪場の増築の為の現状調査を例に、建築の法的な面から不動産物件の資産価値を高める建物の維持の仕方を考えてみます。

屋根付きの駐輪場や駐車場の増築には確認申請が必要です

マンションでも戸建て住宅でも同じなのですが、駐車場や駐輪場を増築する場合でも、それが屋根付きであれば建築物とみなされるので確認申請が必要です。
手続きは建築士事務所が行うことが一般的ですし、確認申請が不要な小規模なものでも違法建築物とならないように検証することが必要になります。
建築士事務所に相談しましょう。
当設計事務所でも大阪を中心とした関西圏で増改築の設計監理を行っております。是非お問い合わせください。
●当建築士事務所でも、増改築工事のお問い合わせ・ご依頼をお待ちしています。

確認申請をどこに依頼する?

『確認申請手続き』は、手続きの依頼を受けた建築士事務所が行うのが一般的です。
駐輪場にサイクルポートを増築するのであれば、まずは新築時に設計した建築士事務所に相談するのが早いとは思いますが、(特に古いマンションの場合)その建築士事務所が今も営業を続けているとは限りません。
事業をやめている等、何らかの理由で新築時の建築士事務所に依頼できない場合は、他の建築士事務所に依頼することになります。この時、当初の『確認申請書の副本』を持参しましょう。本体の建築物と切り離した構造の駐輪ポートであればそんなに難しい手続きにはならないと思います。

ちなみに、確認申請の手続きを行った建築士事務所名や連絡先は『確認申請書の副本』に記載されています。

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駐輪場の増築で確認申請が不要になる場合

駐輪場や駐車場の増築といっても,
屋根がない場合は建築基準法上で建築物とはならないので確認申請が不要です。
屋根のない駐輪場や駐車場であれば、工事するとしても地面に白線で区画を書いたり車止めを置いたりする程度なので、建築工事も伴いませんね。どうぞそのまま使ってくださいという感じです。

『防火、準防火地域』に入っていない地域の増築の場合は、床面積10㎡以下の増築は確認申請が不要です。戸建て住宅のサイクルポートだと十分この面積以内でも可能ですし、駐車場でも一台なら10㎡以内におさめられないこともありません。
ここで気を付けておかないといけないのは、確認申請が不要だといっても違法建築物を建ててもいいわけではないということです。増築には建築基準法の確認と遵守が必要です。
建築士事務所に判断を依頼することをお勧めします。

屋根付きの駐輪場や駐車場の増築が違法となる要因

サイクルポートやカーポートの増築が違法になる主な要因としては、建蔽率・容積率のオーバーがあります。特に戸建て住宅ではカーポートの増築によって建蔽率のオーバーになってしまうことがよくあります。
『建蔽率』の制限とは、建築を真上から見た時の面積の制限のことです。サイクルポートやカーポートも屋根があれば建築物とみなされ建蔽率の対象となりますが、一部緩和措置もあります。
『容積率』の制限とは、建築物の各界の床面積の合計の制限です。これにも緩和措置があるのですが、駐車場や駐輪場では全体の面積の1/5までは算入しなくても良いとなっています。
●建蔽率、容積率について(Coming Soon)

それ以外には道路斜線による高さ制限です。
道路からの後退距離によって道路斜線の緩和を受けている場合、サイクルポートやカーポートが後退距離による緩和を妨げないように配置しないといけません
●道路斜線による高さ制限について(Coming Soon)

こういったことはなかなか自分たちで判断することが難しいのですが、『確認申請書の副本』を建築士事務所に持ち込めば判断してもらえます。
確認申請の手続きに入る前に、計画に無理がないかしっかり確認してもらってから進めましょう。

確認申請から着工、引き渡しまでの流れ

マンションでも戸建て住宅でも同じです。まずは依頼を受けた建築士事務所が市役所に相談します。
ここで事前協議を行い、必要な手続きを確認するのですが、サイクルポートやカーポートの増築であれば、既存建築物が適法に保存されていればそんなに大変な手続きは求められません。

その後で、民間の検査機関に増築する駐輪場の図面の他、既存部分の図面も持ち込んで確認申請の手続きを行います。
協議するのは
・既存建築物が適法に保存されているのか
・駐輪場や駐車場を増築することで違法状態にならないか
ということになります。

事前に計画を確認しておけばこの段階で増築が不可となることはありません。
手続きを行い、確認済証の交付を受けてから着工します。
竣工後、完了検査を受けて合格したら引き渡しを受けて、駐輪場の使用が可能になります。

●建築家とつくる戸建て住宅の魅力

多数ある違法建築

昭和25年に施行された建築基準法も、当初は今ほど着工前に確認申請を通して、竣工後には完了検査を受けるといった事が徹底されていなかったようです。特に昭和40年代ぐらいまでの戸建住宅なんかは確認申請は通っていても、ほとんどの住宅が完了検査を受けていなかったりします。
そのころの木造戸建住宅なんかだと、今では耐用年数が過ぎてだんだんと取り壊されていっているところなので、違法住宅の数が少なくなってきてはいるのですが・・・

しかし、まだ耐用年数の過ぎていない鉄骨造や鉄筋コンクリート造等の現存する古いビルにも建築基準法に違反した建物が多く有ります。
その違法建築の中でも、①建物が違反していて適法に戻すためには是正工事が必要なもの、②建物自体には違反がみとめられないが検査を受けていないだけという手続きに対する違反がある建物、といったおおきく2通りの違反に分類されて、増築や用途変更等の事あるごとに建物のオーナーは違法状態に対応することが求められます。

特に①の場合が問題で、違反の内容によっては現実的にどうにもならない状態の建物もあります。②の場合は、手続き違反を解消して適法に増築や用途変更を行うことができる可能性が十分に残されています。

中古物件の現状確認

中古物件を購入する場合、その建物の現状をしっかり確認しておく必要があります。もしも建物が適法でなければ、後々増築や用途変更等で確認申請を出したい時や、テナントの募集の時に困ることになってしまうのです。
この確認行為は物件の資産価値を確認すると言い換えられるかもしれません。
設計事務所等の専門家の意見も聞いてみてもいいかもしれないですね。
確認申請手続きは行われているのか?完了検査を受けているのか?竣工後今まで適法に管理されているのか?売主の手元に竣工図書や確認申請図書が残っているのか?等です。

確認申請図書の重要性

実際に施工時に使われた図面をまとめた『竣工図書』は保管されていることが多いのですが、確認申請図書はあまり重要視されていないのか保管されていないことがよくあります。
建築工事は役所等の許可が下りた図面に則って施工を行い、完了検査が行われるのですが、その基準となる資料が役所や民間申請機関の印鑑が押された確認申請図書になります。ほとんどの場合で竣工図面は確認申請図書と同じ内容なのですが、最終的な変更内容が反映されて無かったりすることもあるので建物の適法を証明するものではありません。
実際の工事は施工用の図面で行われるので重要視されないのかもしれませんが、法的な手続きを行った確認申請図書も保管しておくべきです。

図面の保管

確認申請が出されているかどうか、中間検査や完了検査に合格しているかどうかは役所に記録が残っているので確認することができます。
それに役所には誰でも閲覧可能な建築計画概要書も保管されているので、建築概要の他、配置図程度の図面は見ることができます。
しかし、それ以外の図面(平面図や立面図等も含めて)となると役所や民間の申請機関には保管されておらず、オーナーか設計事務所が保管しておくしかありません。
建築士法によると、設計事務所の書類の保存義務は平成19年以前は5年間、それ以降は法改正によって15年に引き伸ばされました。
しかし、設計を担当した設計事務所がいつまでも営業を継続している保証などあるわけもないので、オーナー自身で書類を保管しておく必要があると思います。

ところが、この確認申請の書類がない建物がたいへん多いのです。
中古物件を購入する時には適法である事はもちろん、竣工図の他にも確認申請図書もあるか確認しておきましょう。
施工図や竣工図書ではなく、確認申請に添付した図面と建物を比べて、その建物が適法に維持されているかどうかを確認するわけですが、確認申請図書がない場合はその作業に少し手間がかかったり、追加調査が必要になることもあります。
確認申請を伴う建築工事を行った時は竣工図だけでなく確認申請図書も残しておくようにしましょう。

手続き違反の建築の現状調査事例

不動産物件の資産価値
ここからは実際のマンションの駐輪場の増築の相談を例に、簡易な現状調査を行った事例をあげます。
住宅の駐輪場でも屋根をつければ確認申請が必要になるのは同じです。前述の駐輪場の増築についての解説も併せて読んでいただくとわかりやすいと思います。

前提条件

前提条件として、完了検査済証のある古い共同住宅を購入したが、現状は屋根付の駐輪場が増築されているにも関わらず、増築の確認申請は出されていない。
この駐輪場をさらに増築して駐輪台数を適法に増やしたいというのがオーナーの要望です。

この駐輪場は主屋とは別棟で、その主屋は竣工後増改築は行われておらず完了検査合格時のまま維持されています。
駐輪場は延床面積の1/5までを限度に容積率からは除外され、建蔽率には十分に余裕があり、道路に面した場所に駐輪場を設けるわけでもないので道路斜線にも影響はありません。
という事で現状の建物自体は適法になると考えられるので、今回の事例では増築の確認申請や検査という手続き違反をどう解消するのかということになります。

手続き違反の解消方法

増築に対する確認や完了検査の手続き違反がある以上は、現状の建築物を調査して役所に報告をする必要があります。今回の建物では確認申請図書が残っていて、建物本体の増改築は行っていないということなので、自転車置き場の増築についてはそんなに難しいことではありません。

ここからは役所に相談しながら調査を進めるのですが、役所としては一度違法な既存の駐輪場を解体して適法な状態に戻してから事前協議を行い、確認申請を出し、施工して完了検査を受けるという流れで増築工事を進めてほしいという回答でした。
しかし、オーナーとしては今ある駐輪場を解体してまた作り直すというのは無駄が大きくなってしまう為に、出来れば既存駐輪場をそのまま使いたいと考えるのは当然のことです。

なので、まずは既存の駐輪場の構造等を調査・報告して現状が適法であることを市役所に認めてもらう必要があります。現状が適法であるという証明をした上で確認申請を出して増築することはできないか?という可能性を探りながら役所と協議します。

ところがこの既存駐輪場ですが、実は屋根がなければ建築物にはならないのです。
ということで建築物ではない→建築面積が増えない(増築にならない)ということになるので、簡易に適法に戻す方法として、駐輪場の屋根を外しさえすればいいのです。
駐輪場の屋根を外すことはそんなにたいへんな工事ではありません。
しかし、屋根を外すのはいいのですが残された柱や基礎を再利用するのにどんな手続きが必要になるのでしょう?

一旦屋根を外した後既存の柱や基礎の安全性をどう証明するのかというところが重要になってくるのではないかと思うのですが、役所との事前協議では既存物の証明までは求めないということです。『確認申請』に関しては市役所との『事前協議』後に出す、『確認申請』を担当する民間申請機関と協議してくださいということでした。

今回の調査はここで終了。オーナーに報告して、既存駐輪場をそのまま残すのか、解体するのかも含めて、今後の対応の方針を示してもらうことにします。

所有物件の資産価値を守るために

近頃マンションの駐輪場の増築をするオーナーが増えているようです。正確には適法に手続きを行って増築するオーナーが増えているといったところでしょう。今までは申請も出さずに増築することが多かったようですが、今後こういった小さい増築でも、確認申請や完了検査等のきちんとした手続きを踏んでいくことが求められてきています。
というのも建物を購入する時にチェックする部分(今回の事例では適法に増築されているか)というのは、逆に売るときにはチェックされるところになるからです。
建物の資産価値を上げるためにも手続きはちゃんとしておいた方が良いと思います。
特に収益物件は、購入時に売ることも含めて考えて検討しておくべきですからね。


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執筆者略歴

[執筆者 / 監修]
三浦喜世
一級建築士
2007年から一級建築士事務所YMa主催
大阪、兵庫を拠点として店舗、注文住宅、共同住宅等の企画・デザイン・設計及び監理、中古住宅やマンションのリノベーション、オリジナル家具のデザイン・製作等を行う。
[受賞歴]
リノベーションアイデアコンペ 視点特別賞 受賞
東京デザイナーズウィークプロ作品展 出展
Design Competition in Kainan 入選
デザイントープ小論文コンペティション 入選

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